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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)316号 判決

【主文】

特許庁が昭和五一年審判第一四四〇号事件について昭和五五年九月一八日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

【事実】

「第一 当事者の求めた裁判

原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二 原告の請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「包装用袋」とし、昭和四七年九月二五日の出願(昭和四七年意匠登録願第四二八九一号)に基づき、昭和五〇年八月一五日に登録された登録第四一一三五二号意匠(以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるところ、被告は、昭和五一年二月二〇日、本件意匠の登録を無効にすることについて審判を請求し、昭和五一年審判第一四四〇号事件として審理された結果、昭和五五年九月一八日、本件意匠の登録を無効とするとの審決があり、その謄本は、同年一〇月一日、原告に送達された。

二  審決理由の要旨

本件意匠の、意匠に係る物品、登録出願及び登録の各日は、前項記載のとおりであり、その意匠の要旨は、願書の記載及び願書に添付された図面代用見本によれば、次のとおりである。

基本形状は、透明体の正面板と不透明体の背面板よりなる同形の二枚の軟質材を重ね、その周縁を溶着して帯状の袋を構成したものである。その全体的な比率は、横幅を一とすると長さは約七で、四隅をやや隅九状とし、背面板は全体がクリーム色で上端から長さの約五分の一の部分で水平に切截し、それより下の部分の上端開口部が内側へ入るようにくい違いにし、次に正面板は全体が透明で、前記開口部やや上方を周囲にやや余地部を残して小長方形状に緑色に着色し、該着色部下端中央には小円透孔が穿たれ、また、直下には数個の小矩形状の溶着部が刻設され、更に正面板のほぼ中央から背面板開口部やや下までの間の正面に、下端を小矩形状の溶着部で刻設し、両側端を溶着した透明な小袋部が設けられた態様である。

これに対し、意匠に係る物品を「包装用袋」とし、昭和四七年九月一一日の登録出願(昭和四七年意匠登録願第四〇三一八号)に基づき昭和五〇年九月二日に登録された登録第三四二一四二号の類似第一号意匠(以下「引用意匠」という。)の意匠の要旨は、願書の記載及び願書に添付された図面からすれば、次のとおりである。

基本形状は、透明体の正面板と不透明体の背面板よりなる同形の二枚の軟質材を重ね、その周縁を溶着して帯状の袋を構成したものである。その全体的な比率は、横幅を一とすると長さは7.2で、四隅をやや隅丸状とし、背面板は全体がクリーム色で上端から長さの約六分の一の部分に水平に僅かな間隙を設け、それより下の部分の上端を開口部とし、次に正面板は全体が透明で、前記開口部やや上方を周囲にやや余地部と上方に一本の水平な小間隙部を残して小長方形状に緑色に着色し、該着色下端中央には小円透孔が穿たれ、更に正面板下端より長さの約九分の一の部分までに下端と両側端を溶着した透明な小袋部が設けられた態様である。

そこで本件意匠と引用意匠とを比較すると、両者は先ず意匠に係る物品を同一とし、次に透明体の正面板と不透明の背面板よりなる同形の二枚の軟質材を重ね、その周縁を溶着して帯状の袋を構成したという基本構成において酷似し、更に四隅をやや隅丸状とした点、背面板をクリーム色とし上端部よりやや下方に水平な切截部あるいは間隙を設けた点、その下の部分上端を開口部とした点、正面板上部を周囲にやや余地部を残して小長方形状に緑色に着色し、その下端中央に小円透孔を穿つた点などに極めて強い共通点が認められ、かつ、これら諸共通点によつて醸成された両意匠の全体的なまとまりが看者に強い類似感を惹起せしめるものと認められる。

これに反し、両者の間には、背面板開口部のくい違い部分の有無、正面板の小矩形状の溶着部の有無、小袋部の位置や大きさの相違及び正面板上方の緑色の着色部に設けられた一本の小間隙部の有無などの相違が認められるが、くい違い部についてはそれが設けられた場所が背面板の上部といつたあまり目立たない部分にすぎず、また、溶着部や小袋部はいずれも透明体の上に刻設されたり、透明体の小袋を重ねたりしたものであるから、これらもまた極めて目立ちにくいものであり、また、小間隙部の有無も、緑色の小長方形状の着色部という意匠的まとまりの中に吸収されてしまう程度のものである。したがつて、これら相違点はいずれもごく部分的な変更にすぎないから、これが前記の諸共通点によつて醸成された両意匠の全体的なまとまりを凌駕してまで看者に非類似感を与えるほどには未だ到つていないから、両者は全体的に観察した場合、互いに類似するものと認められる。

しかして、引用意匠の登録出願日が本件意匠の登録出願日より以前であることは明らかであるから、本件意匠は意匠法第九条第一項に規定する最先の登録出願人による登録出願でないにもかかわらず誤つて登録されたものであり、その登録はこれを無効とすべきものである。

三  審決の取消事由

審決は、本件意匠と引用意匠とは類似するものではないのに、これを類似するとした点で判断を誤つた違法なものであり、取り消されるべきである。

1  意匠の類否判断においては、ありふれた部分は斬新な部分に比較して小さく評価されるべきであり、殊に本件における両意匠のように、極めてシンプルで簡単な形状・模様により構成されている意匠の類否が問題とされる場合には、数個の相違点があれば、看者に対しその注意をひくほどの印象の違いをもたらすものであることに留意する必要がある。

2  本件意匠と引用意匠とを比較すると、確かに、両者は、①物品の形状が、横の長さと縦の長さの比率を約一対七とする長方形である点、②正面板の上部に一個の小円透孔を有している点、及び、③正面板には、その上部に矩形状の緑色部を、その下部には細長い長方形状のクリーム色部を配している点の三点で一致している。しかしながら、これらはいずれも両意匠の登録出願前既に知られているところであつて、両意匠の支配的要素とはなり得ないものであるし、その結合の態様にも、殊更需要者の購買意欲を刺戟したり購買を誘引するほどの意匠的効果が存するものとはいえないところである。審決が、このようなありふれた部分の共通点を重視して、「これら諸共通点によつて醸成された両意匠の全体的なまとまりが看者に強い類似感を惹起せしめる」というのは失当というべきであり、その「全体的なまとまり」というものも、いかなる状態をいうのか明らかでない。

3 本件意匠とは、①正面板上部に配された緑色部が、引用意匠ではクリーム色の線によつて二分されているのに対し、本件意匠では一体となつている点、及び、②本件意匠が正面に小矩形の溶着部及び小袋部を有するのに対し、引用意匠はこれらを有しない点において明らかに相違するものであり、両者が極めて簡単な形状をなしているため、右二つの相違点の存在によつて、両者は看者に対しそれぞれ異別の印象を与えるものとなつており、両者は類似する意匠ではないというべきである。

右①の相違点について、審決は、引用意匠におけるクリーム色の線すなわち「間隙部は緑色の小長方形状の着色部という意匠的まとまりの中に吸収されてしまう程度のもの」としているが、そもそも引用意匠が登録されたのは、正面板上部の緑色部がクリーム色の線によつて鮮明に二分された点に大きな特徴があると認められたからにほかならず、このように鮮明に二つの緑色部に分けられているものが、一つの着色部という意匠部まとまりの中に吸収されるなどということができないことは明らかである。ことに、両意匠に係る物品の包装用袋は、看板のように遠方から見るものではなく、極めて近距離から観察される物品なのであつて、緑色部が二分されているか否かは容易に観取され、異別の印象を与えるのである。

更に、右②の相違点について、審決は、「溶着部や小袋部はいずれも透明体の上に刻設されたり、透明体の小袋を重ねたりしたものであるから、極めて目立ちにくい」としているが、これは、本件意匠に係る物品の包装用袋が極めて近くから観察されるものであり、透明体の上に刻設されたものであつても光の反射、屈折によつて鮮かに見られることを無視した判断である点で誤つているのみならず、本件意匠における透明な小袋は、商標などを表示した矩形状の紙片を挿入するためのものであつて、本件意匠が物品に実施される場合には、看者の強い関心をひくことになる部分であることを無視している。この小袋は、衣服にたとえれば上衣のポケットに相当するものであり、ポケットを有する上衣の意匠とこれを有しない上衣の意匠とが類似しないと同様、小袋を有する包装用袋とこれを有しない包装用袋とは美感を異にする非類似の意匠というべきものである。

4 なお、本件意匠及び引用意匠に係る物品の包装用袋そのものを購買する需要者は、編針等その中に入れて販売する物の生産者、販売業者であつて、これら需要者が、この種包装用袋の内部に背面開口部から編針等の販売物品を挿入のうえ、正面に標章等を適宜付して挿入物品の最終需要者への供給販売に供するというのが、この種包装用袋の流通形態である。したがつて、右包装用袋そのものが日常生活品として販売されることは、一般には行われない。」

【理由】

一請求の原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて検討する。

1  <証拠>を総合すれば、本件意匠及び引用意匠は、ともに意匠に係る物品を包装用袋とするものであり、その意匠の態様は、審決がそれぞれ基本形状・態様として認定しているとおりのものと認められ、なお、正面小袋部の配された位置及び大きさについて補足すれば、本件意匠にあつては、小袋部の上縁が正面板より約四分の一下方に下つた位置にあつて、下縁が正面板の中央よりやや下方の位置に達するまで、縦対横の比が約二対一の縦長を呈した長方形の小袋部が、正面板の全長に対し約一〇分の三の長さをもつて配されているのに対し、引用意匠にあつては、正面板の下端に、縦対横の比が約四対五の若干横長の長方形を呈した小袋部が、正面板の全長に対し約九分の一の長さをもつて配されているものである。

2  ところで、本件意匠及び引用意匠の意匠に係る物品の包装用袋そのものを購買する需要者は、編針等その中に入れて販売するものの生産者、販売業者であつて、これら需要者が、この種包装用袋内部に編針等の販売物品を挿入のうえ、正面に標章等を適宜付して挿入物品の最終需要者への供給販売に供するというのがこの種包装用袋の通常の流通形態であつて、右包装用袋そのものが日常生活品として販売されることは一般には行われないことは当事者間に争いがない。したがつて、本件意匠と引用意匠の類否を判断するに当たつては、この種包装用袋の取引に接するものとして右のような通常の需要者(すなわち、編針等の挿入物品の生産者、販売業者)を念頭におき、かかる需要者がその用法等を考慮して購買の選択をなすに際し、両意匠の表わされた彼此商品の包装用袋の混同を生じるおそれが存するかどうかによつて判断をなすべきものである。そして、両意匠の表わされた商品としてその種包装用袋の取引に接する需要者は、その購買に際して、該包装用袋を用いて編針等の挿入物品を包装して流通に供するとき、これにいかにして標章等を付するかについて強い関心を有しているのが通常であると認められるから、小袋部の配された位置や大きさ等の要素については、標章等を付する具体的手段(すなわち、正面板に直接印刷するか、あるいは、別に印刷した紙片等を小袋部に挿入するか等の手段)の選択と関連して、購買するかどうかの判断をするについての重要な要素の一つになるものと認めるのが相当である。

3  右の観点から本件意匠と引用意匠との類否を判断する。先ず、本件意匠については、<証拠>によれば、不透明体の背面板に透明体の正面板を重ね、更にその上に透明体の小袋部を重ねたものとはいつても、該小袋部の存在は、審決のいうように目立ちにくいものということはできず、正面板の中央上部に相当の面積をもつて大きく小袋部が設けられていることは、通常の注意力をもつてこれに接する需要者に容易に視認できるものと認められ、小袋部を本件意匠におけるのと同様の態様で設けた包装用袋の実施品に属すると認められる<証拠>も、右認定を裏付けるものである。これに対し、引用意匠にあつては、本件意匠に対応するような位置及び大きさをもつて小袋部が設けられておらず、該部分は正面板の平滑な表面として視認できるものである。しかして、右のとおり容易に視認できる両意匠間の正面板中央上部における小袋部の配置の有無なる差異は、叙上のところから明らかなとおり、包装用袋の需要者にとつて購買するかどうかを考慮するうえで重要な要素の一つとして感得される性質のものであると認められるから、両意匠を異別のものとして識別し、認識させるに十分な差異であるというべく、この点において両意匠は、互いに紛らわしく類似するものとはいえないとするのが相当である。

4  以上のとおりであるから、前叙の点を看過し、本件意匠と引用意匠とを相互に類似するとした審決は、その類否の判断を誤つたものというべく、違法であるから、取り消しを免れない。

(舟本信光 杉山伸顕 八田秀夫)

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